ぽけてん

someone in the crowd

品格階級

 

 

会社の先輩に「服は普段どこで買っているの」と聞かれたことがある。そこはスペインバルで、テーブルにはアヒージョや生ハムが並んでいた。同じチームの人の昇進祝いを検討するために僕と先輩は集まっていたけれど、早々に話は雑談へと転がり始めていた。池袋だったらパルコに行くことが多い、と僕は正直に答えた。その時の先輩のリアクションは少し奇妙だった。僕の返答を予想していながらも本当にその返答が来たことに対する驚きみたいなものを感じ取れた。先輩は「私も昔はパルコで買ってたなぁ」としみじみと呟いた。遠い昔を懐かしむような言い方だった。


先輩は物怖じしない性格と突飛な発言力からチームの中心的な存在だった。そんな先輩の言動に振り回されるのは案外嫌いではなかった。昇進祝いの企画も先輩からの提案だった。恐らく周りの人間は昇進祝いという発想がなかった。派手な言動の裏側でそういう気の利くことを考える道化的な姿勢がこの先輩の食えないところである。


先輩はどこで服を買うのかと聞くと、池袋だったら西武に行く、と答えた。池袋東口には西武デパートとパルコが並んでいるが、客層はあまり被っていない、多分。アパレル店が立ち並んでいることには変わりないが、西武は所謂ハイブランドが多い。僕からすればパルコも決してリーズナブルとは言えないが、西武の方が断然高価格帯であることは違いない。パルコと西武は建物として並んではいるが、その間には見えない線が引かれている。


僕と先輩は歳が7つ離れている。7年後、僕は西武で服を買っているだろうか。勿論、現段階でも西武で服を買っている自分の同世代は少なくはないと思う。僕はファッションに疎い。先輩は家にタンスが3つあるのに服が入りきらないと言う。結局、興味の度合いの話ではあるのだが、一方で30歳くらいには西武で服を買うような人間になりたいとも思う。破天荒な生き方をしなければ歳を重ねる度に収入は増える。学生の頃は思わなかったけど最近は身の丈に合った生活をしたいと思うようになった。僕の場合で言えば安物ばかりに囲まれた生活を続けるのもどうなのかと感じ始めたのだ。もう少し僕は上品になれるのでは!?






この前、初めて西武のファッションフロアに行ってきた。きっかけは少し遡るが、その日僕は美容院でファッション雑誌を読むことなしにぺらぺらと眺めていた。目に飛び込んできたのはスカイブルーのスニーカー。瞬間、感じた衝撃。これは僕に履かれるために生まれたスニーカーだと。あまりにも完璧なデザイン、そして調和的な色。僕は即検索した。ブルックスブラザーズレッドフリースのスニーカー。なんとこのご時世にレッドフリースのウェブサイトは呆れるほど貧弱だった。全然品揃えがない。絶望的な気分になりながら中古のECサイトを巡ったが、そもそもレッドフリースのスニーカーが検索に殆ど引っかからない。次に店舗を検索すると池袋にあるようだった。レッドフリース西武店。


西武のファッションフロアは想像以上に洒落ていた。黒を基調とした内装は厳格さもあり、さながら僕はビバリーヒルズに落ちているボロ雑巾だった。びくつきながらレッドフリースまで辿り着くもスニーカーなんぞ一足も置いてない。店員に話しかけられたけどまじの吃音見せつけて黙らせてしまった。ここは全てが洗練されている。息が詰まりそうだ。


泣きながらパルコに撤退してきた。西武は何もかも格が違いすぎた。パルコをふらふらしていたら気に入ったスニーカーを見つけてしまい、購入。

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ええやん




僕にはまだ西武は早かったようだ。いずれはあの雰囲気にびびらないようになりたいと思う。自分でもなんでこんなに真っ当な人間になろうとしているのかはよくわからない。でもなんだか上品な生活にあこがれるのだ。結局、レッドフリースのスニーカーは記憶の中にしかない。いつか出会えるだろうか。




















正直、自分がこんなオタク要素の抜けた退屈な文章を書いていることに驚いている。アニメイトにいるハゲデブのおっさんを見てこれが僕の未来かと涙したこともあったけど意外にそんなことはないのかもしれない。






現状

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