ぽけてん

someone in the crowd

「ケムリクサ」 感想

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自分は"好き"に正直であるだろうか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

赤虫が闊歩し、常に危険と隣り合わせ。刻々と減る水。

 


ただ意外にも姉妹達はそこまで悲観的ではなかった。心を荒ませてはいなかった。何故か。それは自分の"好き"を持っていたからだ。

 


姉妹はそれぞれ自分の"好き"を語る。りょうは"戦うこと"、りくは"触感"、りつは"育てること"、りなは"食べること"、りょくは"知ること"、それぞれ自分の"好き"をわかっていて、それに正直だ。

 


自分の"好き"を持っているということはつまり、生きることを楽しめるということである。

 


りんは自分の"好き"を持っていなかった。安堵も安息もない日々にりんは希望を見出せてはいなかったのではないかと思う。姉妹を守ること、それだけを礎に生きていた、そんな印象だ。

 

 

 

 

 

 

 


先日、イチローが引退した。あの野球選手のイチローだ。私は野球にはそんな興味はないが昔からずっと知っている選手が引退するというのはなかなか思うところがあった。ずっとプロ野球選手として活躍してきた末の引退の瞬間というのは重みがある。80分くらいの引退会見の動画を私は部屋でぼんやり眺めた。

 


(子供達に何かメッセージをという質問に対して)

「自分の好きなこと・夢中になれることを見つけて欲しい。それは別に野球でなくても良い。そうすればそれにエネルギーを注げるし、壁にも立ち向かうことができる。」

 


細かい文言は違うだろうけど大体こんなことを言っていた。結局、人生というやつはこれに収束する。自分の好きを見つけろ、それに夢中になれ、と。ジョブズも似たようなこと言ってたね。

 


生きていくのに大事なことって結構シンプルだ。イチロージョブズたつき監督も伝えたいこと(伝えたいことというよりは生きて感じた実情みたいなもの)はシンプルな真理だ。

 


しかし、これが意外に難しい。

 


現代社会において、どれだけ自分の"好き"をわかっている人間がいるだろうか。スマホというやつは確かに便利だが、いろんなものが薄っぺらくなった。スマホ一台持っているだけで、いくらでも時間は潰せる。頑張らなくても、工夫しなくても、適当に楽しく過ごせてしまう、凄い代物。ただなんとなく薄っぺらい。表層をさらっと触っただけで終わってしまうのが現代社会の有様だ。スマホにそんな嫌悪感を抱いているのは私だけだろうか?スマホがない生活はもう想像も出来ないけど、同時に自分の"好き"を知らずに生きる人間が結構多いという現状に危機感を感じてしまうのだ。

 


「好きなものを見つけるって、多分嫌なものを見つけるより難しいんだナ」

 


これはりなの台詞だけれどなかなか慧眼だ。嫌なものってのはぽんぽん思いつくし、話題にもしやすい。愚痴を言いたくなる時もあるだろう、陰口を叩きたくなる時もあるだろう。愚痴を言えばスッキリするし、他人の陰口で盛り上がることだってある。私なんかは他人の陰口を言うのが大好きだけど、まぁ虚しいよね。ただただ虚しい。何か好きなことに夢中になることの方が何億倍も有意義だし素敵なことだ。

 

 

 

 


リリという女の子がいた。人間が転写されて生まれた人間のような何か。個人的にはリリの一連の話はまじで救いないし報われないなぁと思った。あの意志は純粋で尊いけどやっぱ悲しい物語であることは変わりはない。最後にメモ書きを消すのが凄いよね。ワカバを救うために自身をケムリクサにしようとして、なんか最後の最後にワカバはもう助からないことがわかっちゃって、ギリギリのところで新しく生まれるケムリクサ達に自由に生きてと言うのどういう精神構造してんだ。狂ってるでしょ…。

 


リリの願いを知ってか知らずか姉妹達は自由に生きるわけですけどね。たつき監督はそこまで考えてはないかもしれないけど、ここの物語の構成が結構面白いなと思ってて。どういうことかと言うと、人間のエゴで生命体を生み出していいのかという問題提起をしてるのかなと感じた。具体的にはクローン問題を題材にした、小説「わたしを離さないで」や映画「私の中のあなた」を思い出した。臓器提供とかそういう目的の為にクローン人間を作っていいのか。クローンだとはいえそれは人間であり意志を持っている。自由に生きる資格を持っているはずだ。そういう問題。結果的にリリは自由に生きてと言ったわけだけど、微妙なラインではある。

 


まぁ何が言いたかったかといえば、りんは記憶の葉で自分の出生及びリリの一部始終を知ったけど、そのことを知ったからといってりんの中で何かが特別に変わったことはなかったのではないかと思う。わかばを助けようととっさに動いたのはりん自身の意思。リリの映像を見たからとかそういうのは関係なくて、りんが自分で選び、自分の意志で行動した。ラスト、りんがわかばに好きと告げたのもそれは自分だけの気持ちだった。そこが良いなと。

 

 

 

 


自分の"好き"に正直に生きる。それはとても素晴らしいことだ。そんな人生賛歌の物語、それがケムリクサだと私は思う。

 

 

 

私は逆説的に言えることもあると考えた。1島を出ようかどうかと姉妹で議論するシーンがあった。りんは可能性に賭け、1島を出ることを選択する。水を求める旅へ。

 


もし、自分の"好き"が見つからないなら新しい一歩を踏み出せばいいと。そうすることで見えてくるものもあるかもしれないし、知らなかったものに沢山出会えるだろう。

 


りんは新しい一歩を踏み出したからこそ自分の"好き"を見つけることができたとも言える。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

色々つらつら書いたけど本当に素晴らしい作品に出会えた。まぁまだ消化しきれてないところもあるしまたなんか書こうかな。私ももっと"好き"に正直に生きてみようと思いました。ま、現実はなかなかそう上手くはいかないんすけどね(爆笑)。